あるるんさんとノアさんとの遊びで三題噺をする事にしました。せっかくなので三人でどれが一番良い(goodきた)作品かを競争することになりました。
しっぽりしたかんじになりました。3分くらいで読めます。
<審査員の方へ>
3月10日までに「これは良いな〜〜〜」と思った人の記事に直接コメントをしてください。よろです。コメントの内容についてはなんか一言で問題無いはずです。
【キーワード】
・ガラス(あるるんさんのお題)
・血(ノアさんのお題)
・財布(僕のお題)
※三題噺っていうのは、ざっくり言うとキーワードを予め設けておいて、それらのキーワードを全て組み込んだストーリーを作るっていう所謂大喜利的なやつ。
キーワードは赤字。
三題噺「ガラス、財布、血」 - 夢も希望もないポケモンブログあるるんさんのやつ
三題噺競争「ガラス、財布、血」 - クチート使いの随想録ノアさんのやつ
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『クリスマス』
当時の私はまだ幼く、十かそのくらいの歳だったと思う。
私の家はいわゆる貧乏というもので、親戚の家を間借りさせてもらう形で生活していた。
朝は硬いパンをお湯で浸したスープ、夜は一膳の米と一品の主菜、そんな生活。
しかし、そんな生活もクリスマスの日だけは毎年例外だった。
父が毎月少しずつ貯めておいたお金で、ホールケーキを買ってくれるのである。
そして、私が十になった年も例に漏れず、クリスマスはやってきた。
飾り付けられたイルミネーションが辺りを照らし、それに呼応するように雪がきらきらと輝く。高層ビルから漏れ出す残業の光でさえ絵になるような、そんな夜。
父は私と弟を連れ、予約していたケーキを受け取りに店へと出掛けた。
普段はとても質素な食事しかせず、周りの友達に対して劣等感を抱いていた私も、クリスマスの日だけは胸を張って外へ出る事が出来た。
冬であるにも関わらず、私の血は頬を赤く高揚させ、そして暖かく染めている。
薄く積もった雪に足跡を残しながら、私たちは店へと向かっていた。
店に着くと、父は受付へと足を運び、予約していたケーキを受け取る手続きを踏んでいるようだった。
その間私と弟は、ケーキ屋の入口にあった大きなガラスの扉越しに外の景色を眺めていた。
足早に家へと向かう大人。不相応なカップルが街へと出歩く光景。雪で足を滑らせ転ぶ子供。普段は目に出来ないような光景を、私たちは目にしていた。
そんな中、ある一組の親子が、ケーキ屋の前で佇んでいるのが目に留まった。
私の母よりも少し若いくらいであろう母親と、小さな女の子と男の子。恐らくどちらも私より年下であろう。
女の子は母親の服の裾をそっと掴みながらケーキ屋の中を覗き、男の子は同じく母親の服の裾を掴みながらケーキ屋の中を指差し、何かを母親に訴えているようだった。
母親は自分の財布の中と店の中とを交互に見比べ、何やら葛藤しているような表情を浮かべている。
財布からいくらか小銭を出したかと思えば、それをすぐに戻す。そんな動作を繰り返している理由は、十ばかりの私でも理解することが出来た。
そして、私はそこにある種の優越感を覚えていた。
私たちとその親子を隔てる一枚のガラス扉を、優越感と劣等感の差と感じてしまうような。
しばらくすると、父は手続きを済ませ、大きなホールケーキの入った箱を片手に私たちのそばへやってきた。
私たちは大きなガラス扉を開け、親子との隔たりを無くす。しかし、私たちには大きなホールケーキがある。優越感は保たれたままだった。
その時、私と女の子の目が合った。
私があちらをずっと見ているのだから、あちらから私を見れば目が合うのは当然だろう。
すると、女の子は、
「私、ケーキ要らない。」
と言うと、母親の服の裾から手を放し、ニコニコとしながら母親の前へと向き直った。
同じくして男の子も、
「僕も要らない。」
と続け、女の子と顔を合わせながら笑い合っていた。
母親は寂しげな、それでいて安心したような笑顔を彼女らに向けると、財布を懐へとしまい、人混みの中へと姿を消した。
途端、私を取り巻いたのはとてつもない敗北感であった。
ちっぽけな優越感を足蹴にされたような、そんな感覚。
私は、父に名前を呼ばれるまでぼんやりと立ち尽くした。
帰路に就く。
私の中に宿っていた優越感は消え去り、かわりに敗北感がまとわりついている。
だが、それでいて何か暖かみのあるものが心の中に流れ込んできたような気がした。
吐息が白く色付き、私の血は頬を赤く染めている。
しかし、それが高揚の血でない事は私しか知らない。